みなさんは小規模多機能型居宅介護という介護施設をご存知でしょうか。
本記事では、小規模多機能型居宅介護がどんな役割をもっていて、そこで働く職員がどういったサービスを提供しているのか、を紹介します。
小規模多機能型居宅介護に興味のある方は、ぜひ読み進めてみてださい。
厚生労働省の資料「小規模多機能型居宅介護」には次のように説明があります。
「小規模多機能型居宅介護」は、利用者(要介護(支援)者)の心身の状況や置かれている環境に応じて、利用者の選択に基づき、居宅に訪問し、または拠点に通わせ、もしくは拠点に短期間宿泊させ、入浴・排せつ・食事等の介護、調理・洗濯・掃除等の家事等や機能訓練を行うもの。
「小規模多機能型居宅介護」厚生労働省
ポイントをまとめると以下のようになります。
小規模多機能型居宅介護について理解するうえで、重要なことがもうひとつあります。
それは、小規模多機能型居宅介護を創設した経緯についてです。
厚生労働省の資料(上記と同じもの)には次のように書かれています。
「通い」を中心として、要介護(支援)者の様態や希望に応じて、随時「訪問」や「泊まり」を組み合わせてサービスを提供することで、中重度となっても在宅での生活が継続できるよう支援するため、小規模多機能型居宅介護が創設された(平成18年4月創設)。
「小規模多機能型居宅介護」厚生労働省
この経緯についてもポイントをまとめると以下のようになります。
デイサービスや訪問介護、ショートステイは利用の時間や提供できる介護サービスの内容などが細やかに決められています。
既存の介護サービスだけでは自宅で暮らす高齢者の生活を支えきれない、ニーズに応えきれないだろうと国は考えたのが想像できます。
また、増え続ける高齢者の生活を支えるためには入所型の施設(特別養護老人ホームやグループホームなど)だけでは数が足りないという背景もありました。
経緯に直接書かれているわけではないのですが、自宅での生活を力強く支える介護サービスが必要という考えがあったことも確かです。
小規模多機能型居宅介護の役割は一言で説明すると、「自宅で暮らす利用者さんの生活を支援すること」です。
利用者さんがその人らしく出来るかぎり自立した生活を送ることができるように、事業者は施設への通いを中心に泊りや自宅への訪問を行い生活の支援を行います。
また、利用者さんが希望を聞き取り家庭的な環境を用意することやなじみのある地域住民との交流、身体機能の訓練などをサポートすることも、小規模多機能型居宅介護の役割となります。
小規模多機能型居宅介護事業所の人員配置の基準は、次の表のとおりに定められています。
代表者 | 1人 |
管理者 | 1人(常勤・専従の者) |
介護従業者(日中) | 通いサービス 常勤換算方法で、職員3:利用者さん1以上 |
介護従業者(夜間) | 時間帯を通じて1以上 ※宿泊する利用者さんがいない場合、置かないことができる |
訪問サービス | 常勤換算方法で1以上 |
看護職員 | 介護従業者のうち1以上 |
介護支援専門員 | 1以上 |
宿直職員 | 時間帯を通じて1以上 随時の訪問サービスに支障がない体制が整備されている場合、必ずしも事業所内で宿直する必要はない |
小規模多機能型居宅介護で働く際に必要な資格は、以下のように定められています。
代表者 | 認知症の介護従事経験若しくは保健医療・福祉サービスの経営経験があり、認知症対応型サービス事業開設者研修を修了した者 |
管理者 | 3年以上認知症の介護従事経験があり、認知症対応型サービス事業管理者研修を修了した常勤・専従の者 |
介護職員 | 特になし |
看護職員 | 看護師の資格を保有した者 |
介護支援専門員 | 介護支援専門員であって、小規模多機能型サービス等計画作成担当者研修を修了した者 |
介護職員については、特に必要な資格については定められていません。
しかし、介護の実務にあたることから、介護福祉士や介護福祉士実務者研修、介護職員初任者研修の資格を保有していることが望ましいと言えるでしょう。
小規模多機能型居宅介護の設備については以下のように定められています。
この他に多くの小規模多機能型居宅介護では利用者さんが生活しやすいよう(介護者が介護をしやすいように)、玄関や廊下、浴室、トイレなど車椅子でも利用できる十分な広さや手すりなどが確保されている場合がほとんどです。
介護に必要なベッドや車いすタイプの入浴機器なども常備されているケースも多くあります。その他にも生活する上で必要となる冷蔵庫や洗濯機、テレビなども設置されています。
小規模多機能型居宅介護で働く職員は、どういった利用者さんへ介護サービスを提供しているのでしょうか。
小規模多機能型居宅介護の利用者さんは厚生労働省の資料「平成30年度介護給付費等実態統計報告」によると、要支援1・2、要介護1・2の方が約61%を占めているとのことです。
同じ介護度でも利用者さんごとにその状態や必要な支援は異なるので、一概には言えない部分もあります。
どちらかというと軽度の介護度に認定されている方へ、介護サービスを提供していることがわかります。
小規模多機能型居宅介護では、多岐にわたる介護サービスを提供しています。
中心となるサービスは、
などです。
小規模多機能型居宅介護で働く職員の中心である介護職員の1日を、日勤と夜勤に分けて紹介します。
出勤
夜勤スタッフから利用者さんの夜間の様子など申し送り事項を引き継ぎ、情報を共有する
通いサービスを利用する利用者さんを自宅へ迎えに行く
ホームへ来た利用者さんの見守り
血圧や体温などを測定し体調を確認
入浴の介助
昼食の準備
昼食
食事の介助や見守り
服薬の介助
昼食後の口腔ケア
職員の休憩
レクリエーション
おやつ
通いサービスを利用した利用者さんを自宅へ送る
夜勤スタッフへ利用者さんの日中の様子や状態などを引き継ぐ
夕食の準備
ホームの清掃作業
退勤
※随時、利用者さんに合わせて排せつの介助を行います。
※あらかじめ決められた時間、もしくは随時、利用者さんの自宅へ訪問し介護サービスを提供します。
※空いた時間に利用者さんの様子や行った介護内容を記録する作業をします。
出勤
日勤スタッフから利用者さんの昼間の様子や、状態などの申し送り事項を引き継ぐ
夕食の準備
夕食
食事の介助や見守り
服薬の介助
夕食後の口腔ケア
就寝前の介助
消灯
定期的に居室を訪問し利用者さんの様子や状態を確認
眠れない利用者さんの見守り
必要に応じてトイレへの誘導やおむつの交換といった排せつの介助
起床の介助
朝食の準備
朝食
食事の介助や見守り
服薬の介助
朝食後の口腔ケア
日勤スタッフへの申し送りと引き継ぎ
退勤
※空いた時間に利用者さんの様子や行った介護内容を記録する作業をします。
※決められた時間、もしくは随時休憩を行います。
小規模多機能型居宅介護は、利用者さんの希望に添うことができるよう柔軟なサービスを提供しているといった特徴があります。
働く側にとっての魅力も、小規模多機能型居宅介護ならではの部分が多くあるのでその一部を紹介します。
上記の「小規模多機能型居宅介護とは」で軽く触れましたが、小規模多機能型居宅介護ではデイサービスやショートステイ、訪問介護ではできなかったことを行うことが可能です。
例えば、利用する時間は既存のサービスではある程度定められていますが、小規模多機能型居宅介護では、利用者さんの状態やニーズに合わせて設定することが可能です。支援内容も同様です。
支援に必要であれば自宅へ訪問してお喋りをするといったこともできます。
利用者さんの状況などに応じて、必要な支援を適切かつ柔軟に行うことができます。そのため、今まで制度上行うことが難しかったことでも、実現できる可能性があるのです。
そのことは仕事へのモチベーションのアップややりがいにつながるのではないでしょうか。
小規模多機能型居宅介護では、生活上での大きなことから小さなことまで困りごとへの支援を利用者さんの状況やニーズに添って行います。
その経過の中で利用者さんやその家族と本音で話す機会も多く、自然と心の距離は縮まり強いつながりが生まれることがあると言えるでしょう。
利用者さんやその家族から「ありがとう」「いつも助かっています」と心から感謝されることもあり、それは小規模多機能型居宅介護ならではの魅力と言えると思います。
小規模多機能型居宅介護では、デイサービスやショートステイ、訪問介護の要素が入り混じっています。
働く方は、自然と幅広い介護業務に対応できるスキルが身についていくので、スキルアップの面で大きなメリットがあると言えるでしょう。
小規模多機能型居宅介護では柔軟なサービスを提供できる一方で、特有の役割や働き方が求められます。いくつか注意が必要な点を紹介するので確認をしてみてください。
小規模多機能型居宅介護では、利用者さんの状況やニーズへ柔軟に対応していくことから、幅広い介護業務に臨機応変にあたっていくことになります。
もちろん、どのような支援をするのかは事前に決めて準備をしておくものです。しかし、想定していなかったような出来事や支援を求められることもあります。
決まったことを、決まった時間に繰り返すという単純なものではなく、柔軟な対応が求められるのです。
小規模多機能型居宅介護で行う支援には様々な能力が求められます。
食事や入浴、排せつの介助などの介護技術はもちろんのこと、洗濯や掃除などの家事援助の技術、コミュニケーション力、細やかなことへ気づく力と気づきからの想像力、幅広い支援へ適応する能力が必要と言えるでしょう。
もちろん、これらの能力を最初から備えている方は少ないですが必要とされている能力であることは押さえておくことが大切と言えます。
小規模多機能型居宅介護には、これまでにお伝えしたような他のサービスにはない特徴があります。
それらに合わせ、小規模多機能型居宅介護で働くために向いていると言える方の特徴をまとめてみました。働いてみたいと考えている方は参考にしてみてください。
通いや訪問、泊りなど幅広い働き方をすることから求められる能力も同様に幅広いものです。
次のような点に自信のある方は、小規模多機能型居宅介護での仕事が向いていると言えると言えるでしょう。
小規模多機能型居宅介護は定員制で少人数の利用が基本となっています。そのため、利用者さん一人ひとりと、じっくり関わり合いながら働きたいという方には向いている環境が整っていると言えます。
介護の仕事をしていた方なら一度は「こんなことができればもっと利用者さんの生活がよくなるのではないか」と思ったことがあるのではないでしょうか。
なんでもできるというわけではありませんが、利用者さんへのアセメントなどを行いながら、柔軟な支援を行うことができる特徴が、小規模多機能型居宅介護にはあります。
「こんな介護がしてみたい!!」といった思いのある方には向いていると言えるでしょう。
小規模多機能型居宅介護での働き方や、一日のスケジュール、その特徴、向いていると言える方について紹介をしてきましたが参考になったでしょうか。
現在の介護業界は画一的な介護ではなく、利用者さん個人のニーズや生活のあり方などより個別性を大切した支援に重きをおいています。
小規模多機能型居宅介護はまさにその流れに沿ったサービスの形と言えるでしょう。
これから介護の仕事をしてみようと考えている方、介護の仕事を経験したことのある方を含め、利用者さんの個別性を重要視している小規模多機能型居宅介護で働くことを検討してみてはいかがでしょうか。
2021年3月10日公開/2024年4月1日更新(ひょうご介護アナウンス編集部)