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介護においても重要とされる「ノーマライゼーション」とは?

ノーマライゼーションとは
「障害を持っている人や高齢者が他の人と同じように、自分らしい生き方ができるような社会を実現しよう」
という意味を持つ考え方です。

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※点字ブロックも視覚に不自由な方が健康な人と同じように暮らすためのノーマライゼーションの1つと言えます。

ノーマライゼーションは、介護職員初任者研修や介護福祉士などの試験で出題されやすい用語です。しっかりと押さえておくのが良いでしょう。

ノーマライゼーションは介護職員初任者研修のレポート課題で出題されやすい

介護職員初任者研修の記述式レポートでは

  • 「介護サービス提供の視点について、ノーマライゼーションの考え方を取り入れて述べよ」
  • 「ノーマライゼーション実現のためには」

などノーマライゼーションに関する課題が出題されています。

記述式レポートの問題は正解が1つではありません。ノーマライゼーションという意味が理解できているか、それをもとに自分なりに考える力があるかを問われています。

まずは、ノーマライゼーションの用語をしっかりと理解しておくことが大切です。

ノーマライゼーションの歴史

ノーマライゼーションとは、第二次世界大戦後の1950年代にデンマークの行政官であったニルス・バンク=ミケルセンによって提唱されました。
当時、知的障害者の行政官であったニルス・バンク=ミケルセンが知的障害者たちが収容されている大規模施設にて、彼らが人としての扱いを受けていないことに疑問を持ち「障害のある人も障害のない人々と同じ生活と権利が保証されるべき」と提唱。「知的障害者の親の会」と共に政府に対して法改正を求めています。
そして、「ノーマライゼーション」という言葉が用いられた法律が1959年にデンマークで成立しています。

1960年代になるとノーマライゼーションの考え方は北欧諸国に広がり、スウェーデンのベンクト・ニィリエが「すべての知的障害者の日常生活様式の条件を、社会の普通の環境や生活方法に可能な限り近づけること」と定義しました。
そしてノーマライゼーションは世界中に知られるようになります。

ノーマライゼーション8つの原理

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ベンクト・ニィリエは、ノーマライゼーションを8の原理に定義しています。

原理概要介護における例
①1日のノーマルなリズム重い障害があったからといって1日ベットで過ごさせたりせず、一般的な生活を送りましょう。寝たきりだからといって1日中ベットで過ごさせず、体力に合わせて一般的に生活してもらいます。
②1週間のノーマルなリズム平日は「学校・仕事」休日は「休む・遊ぶ」など、一般的な1週間のリズムで過ごしましょう。高齢になっても1週間の中でメリハリをつけて生活してもらいます。
③1年間のノーマルなリズム「季節のイベント・長期休暇・旅行・旬のものを食べる」など、一般的な1年の生活リズムで過ごしましょう。高齢になり介護が必要でも季節を感じる、楽しみのある生活を送ってもらいます。
④ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験「遊ぶ・恋をする・オシャレをする」など、誰もが成長する上で経験をしていくことを障害に関係なく体験できるようにしましょう高齢や障害を理由に「経験ができない」とすぐに諦めさせません。
⑤ノーマルな個人の尊厳と自己決定権障害に関係なく希望や夢を持ち、将来のことは自分で決定する。周りの人は、その権利を尊重しましょう。高齢になり介護が必要でも自分の人生は自分で決定し、その責任は自分にあるとします。
⑥その文化におけるノーマルな性的関係障害に関係なく恋をできる環境で生活し、異性と良い関係を築けるようにしましょう。高齢や介護を理由に、異性と良い関係を築くことを阻害させません。
⑦その社会におけるノーマルな経済水準とそれを得る権利障害に関係なく一般的な経済水準が保証されるようにしましょう。介護が必要であったとしても、一般的な経済的水準の生活ができるようにします。
⑧その地域におけるノーマルな環境形態と水準障害がある人も、その地域の健康な人と同じような環境で過ごせるようにしましょう。高齢や介護が必要であっても、本人の望む環境で暮らせるようにします。

この原理は主として障害者福祉で用いられる考え方ですが、高齢者福祉・介護においても基本となる重要な考え方です。
しかし、介護職として働いていて実際に詳しく知っている方は少ないのではないでしょうか。

①1日のノーマルなリズム

障害を持っている人も高齢者も
・朝起きたら布団から出る。
・仕事に行って、家に帰ってくる。
など、「健康な人の一般的な生活リズムと同様な生活を送れるようにする」という考え方です。
足などが悪い高齢者の方に対しては、
「どうせ治らない、必要以上に動かしたら可哀想」
とつい1日ベットで過ごさせてしまいがちになります。

しかし、ベッドで過ごす時間が多くなると、足の筋肉はますます衰え、状況はさらに悪化していくでしょう。運動不足が原因で、別のところが悪くなってしまうかもしれません。

そのため、足など多少悪いところがあっても、体を動かし、なるべく普通の人と同じような生活を目指すことが大切です。

人との交流も生まれ、生活する上での活力にもつながるでしょう。

②1週間のノーマルなリズム

障害を持っている人も高齢者も
・平日は仕事に行き働く、学校に行って勉強する。
・休日は休む・外出して遊ぶ
といった「1週間単位のメリハリある生活を送るようにしましょう」という考え方です。
高齢になり介護が必要となると、毎日が単調になりやすくなります。その要因が老化によるものだと、つい「しょうがない」と諦めがちです。しかし
「平日はデイサービスにいく。休日は家でくつろぐ」
など、メリハリをつけることで認知症の症状が改善したり、活気が戻ることがあります。

③1年間のノーマルなリズム

障害を持っている人も高齢者も
・「お正月・GW・夏休み・クリスマス」といった季節の行事
・旅行の計画を立てる
など、「年間を通して一般的といえる生活リズムを送りましょう」という考え方です。
未来に楽しみな予定、イベントがあると生活にハリが出てきます。

④ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験

障害を持っている人も高齢者も

・友達と遊ぶ
・恋をする
・オシャレなどを楽しむ
・成人したら仕事を通して責任を負う
など、「誰もが成長するにあたって経験するであろう体験をできるようにしましょう」という考え方です。

高齢者の方においては特に
・孫と遊ぶ
・趣味をひたすら楽しむ
・旅行に行く
など、現役を引退したら誰もが楽しみたい経験があります。介護においては必要最低限の身体介護だけでなく、高齢者の方の願望を実現するような関わりが重要です。
高齢や介護を原因に夢を諦めないようなサービスを目指しましょう。

⑤ノーマルな個人の尊厳と自己決定権

障害を持っている人も高齢者も

・夢や希望を持ち、周囲の人間もそれを尊重する
・自分で住む場所を決める
・自分にあった仕事を選んで働く
といった考え方です。

介護においても「自己決定」という考えは非常に重要となります。認知症を理由に全てを家族や介護者などが決めてしまいがちです。
確かに重要な決定が難しいケースも存在しますが、
・どんな洋服を着るか
・何を食べたいか
など、日常の決定などは可能な場合が多くあります。
「どうせわからないから」
は、介護においての「ノーマライゼーション」とは言えません。
自己決定を支えるような介護を行っていきましょう。

⑥その文化におけるノーマルな性的関係

障害を持っている人も高齢者も
・恋や結婚を諦めない
・異性と良好な関係を築ける
といった機会や環境があることが重要です。

高齢者の方においてもこの権利は同様です。
老人ホームに入所したって恋をすることもできるし、高齢でも性欲が強い方も当然いると思います。
「好きな異性と仲良くなりたい・長年連れ添ったパートナーといつまでも一緒にいたい」
という感情は自然なものであり、障害や年齢、病気によって妨げられるものではありません。

⑦その社会におけるノーマルな経済水準とそれを得る権利

障害を持っている人も高齢者も
・基本的な公的財政援助を受けることができる
・経済的に不安なく生活することができる
・必要な物・欲しい物を買うことができる
といった考え方です。当然、そのための責任も全うすることとなります。

介護が必要となると、健康な頃のように収入を得るのは難しくなります。しかし、介護が必要になったからといって貧困生活を強いられるのは誰もが嫌でしょう。
介護において金銭的負担を軽くする制度は多くあります。これらを用いて、少しでもノーマルな経済水準に近づけるよう支援していきましょう。

⑧その地域におけるノーマルな環境形態と水準

障害を持っている人も高齢者も

・大規模な収容所での生活を強いられたり隔離されない
・その地域で普通といわれる環境で生活ができるようにする
といった考え方です。

高齢者介護においても可能な限り住み慣れた良い環境で暮らしていただくことを目指す必要があります。
当然、全てが叶うというわけではありませんが、可能な限り希望に沿った生活をできるよう支援していきましょう。

介護におけるノーマライゼーションとは

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ノーマライゼーションとは障害者福祉において発生した言葉です。しかしその考え方は「高齢者福祉・介護」において同様です。
介護保険法の目的でも「高齢者の尊厳を保持し、ご本人の自己決定を尊重する」といった内容の表記があります。
また、介護施設において10人以下の少人数定員が増えてきているのも、その影響といえるでしょう。
今後、介護においてノーマライゼーションの考え方がさらに重視されていくことが予想されます。

ノーマライゼーションと合わせて押さえておきたい用語

介護職員初任者研修や介護福祉士などの勉強をされている方は、ノーマライゼーションと合わせて

  • QOL(Quality of Life)

というキーワードも押さえておくと良いでしょう。

過去に介護職員初任者研修の記述式レポートで、

「介護を提供する際に留意する点について、尊厳の保持・QOL・ノーマライゼーション・自立支援の4つのキーワード全てを用いて、500文字程度にまとめなさい」

という問題が出題されました。

QOL(Quality of Life)とは直訳すると「生活の質」という意味です。

介護・福祉の分野では、障害を持っている人や高齢者を病人扱いしたり寝たきりにさせたりするのではなく、身体的にも精神的にも自立した、充実した生活ができるように支援して行こうというものになります。

障害を持っている人や高齢者のQOLを高めるために、他の人と同じような生活ができるような環境を整備していくノーマライゼーションの考え方が大切です。

まとめ

今回はノーマライゼーションの原理について解説しました。
元々は障害者福祉において使われた考えですが、高齢者福祉・介護においても重要となる考え方となっています。
「障害のある人もない人も互いに支え合い、地域で明るく豊かに暮らし行ける社会を目指す」
この記事をきっかけに自身の介護について考えるきっかけになれば幸いです。

2022年3月1日公開(ひょうご介護アナウンス編集部)